ゆっくりと意識が浮上する。
なんだか今日はよく意識を失う日だ。おかしくもないのに何故か笑ってしまう。
「アル……?」
名を呼ばれ、目蓋を押し上げた。
水浅葱の髪がカーテンの様にアルの視界を縁取っている。
「……リオ」
「大丈夫?」
「うん」
嘘ではない。
先程までの痛みが全て消え失せている。まるで夢を見ていたかの様だ。
その代わり、アルの全身を強烈な倦怠感が襲っていた。
指一本動かすことすら億劫で、アルは再び目蓋を閉じる。
「リオ……僕、すぐには動けない、かも」
「わかった」
「ごめ、ん」
「ううん」
短い会話の後、直ぐに寝息が聞こえ始める。
まだまだ幼い少年の寝顔を暫しの間見つめる。
乱れた前髪を直してやると、リオは僅かに目を伏せた。
***
次に目を覚ました時、アルはソファに寝かされていた。
見知らぬ天井を見上げて覚醒するのもこれで二度目である。
少し前までいつもの日常に生きていたというのに…少し変な気分だ。
ゆっくり身を起こすと、部屋の隅で膝を抱えていたリオが顔を上げる。
「……おきた」
出会った時と同じセリフを呟く彼女に笑いかける。
「うん、おはよう……でいいのかな」
「おはよう?」
「あは……リオが、ここまで運んでくれたんだよね。今も、塔で倒れた時も。…ありがとう。それと、ごめんね。重かったでしょ?」
「ううん、へいき」
ゆるくかぶりを振ると、リオがゆったりとした動作でこちらへやってくる。
そこで改めてアルは部屋を見回した。
そこまで広くないスペースに、ソファとテーブル、簡素なキッチンが詰め込まれている。
部屋の規模からして、ここは居住区の建物だろう。
橋は、なんとか渡れたようだ。
「ねぇ、リオ。僕はどれくらい眠っていたの?」
「夜に、なるまで」
「そっか……」
アルはソファから足を下ろし、リオも座れるように端へ寄った。
部屋に暫しの間沈黙が降りる。
足元をじっと見つめていたが、隣にリオが腰かける気配を切っ掛けに、口を開いた。
「あの、さ……黒髪の女の子を追い払ったのって、僕……なんだよ、ね?」
言葉を選びつつ、慎重に問いかける。
視線をやると、リオがこくりと頷いた。
「……僕、なにを、したんだろう」
正直に言えば、川で意識を失った後のことは、ぼんやりとしか覚えていないのだ。
自力で川を上がったことも、黒髪の少女に刃を向けたことも、かろうじて覚えてはいるが、まるで夢の中の出来事のように不鮮明だ。
それに、あの時アルが手にした剣。
あれは一体どこから取り出したというのだろう。
もっと不思議なこともある。自身の体のことだ。
あの少女に蹴られた痛みも、川に落ちた衝撃も……ふくらはぎに出来ていた切り傷さえ、綺麗に消え失せている。
今の体調は万全だ。不自然なほどに。
「……アル」
黙り込んだアルの手のひらを、そっとリオの両手が包み込む。
…小さな手だ。12歳のアルよりも、もっと幼い華奢な手。
「忘れないで。アルは、アルだから」
その言葉の真意は、まだよく分からなかったが。
それでも、リオが元気づけてくれようとしているのは伝わる。
「……ありがとう、リオ」
やんわりとその手を握り返す。彼女のおかげで、幾分か気分が上向いた。
わだかまる不安から、今は目を逸らして。
寄り添う二人は、まんじりともせず夜を過ごしていく。
なんだか今日はよく意識を失う日だ。おかしくもないのに何故か笑ってしまう。
「アル……?」
名を呼ばれ、目蓋を押し上げた。
水浅葱の髪がカーテンの様にアルの視界を縁取っている。
「……リオ」
「大丈夫?」
「うん」
嘘ではない。
先程までの痛みが全て消え失せている。まるで夢を見ていたかの様だ。
その代わり、アルの全身を強烈な倦怠感が襲っていた。
指一本動かすことすら億劫で、アルは再び目蓋を閉じる。
「リオ……僕、すぐには動けない、かも」
「わかった」
「ごめ、ん」
「ううん」
短い会話の後、直ぐに寝息が聞こえ始める。
まだまだ幼い少年の寝顔を暫しの間見つめる。
乱れた前髪を直してやると、リオは僅かに目を伏せた。
***
次に目を覚ました時、アルはソファに寝かされていた。
見知らぬ天井を見上げて覚醒するのもこれで二度目である。
少し前までいつもの日常に生きていたというのに…少し変な気分だ。
ゆっくり身を起こすと、部屋の隅で膝を抱えていたリオが顔を上げる。
「……おきた」
出会った時と同じセリフを呟く彼女に笑いかける。
「うん、おはよう……でいいのかな」
「おはよう?」
「あは……リオが、ここまで運んでくれたんだよね。今も、塔で倒れた時も。…ありがとう。それと、ごめんね。重かったでしょ?」
「ううん、へいき」
ゆるくかぶりを振ると、リオがゆったりとした動作でこちらへやってくる。
そこで改めてアルは部屋を見回した。
そこまで広くないスペースに、ソファとテーブル、簡素なキッチンが詰め込まれている。
部屋の規模からして、ここは居住区の建物だろう。
橋は、なんとか渡れたようだ。
「ねぇ、リオ。僕はどれくらい眠っていたの?」
「夜に、なるまで」
「そっか……」
アルはソファから足を下ろし、リオも座れるように端へ寄った。
部屋に暫しの間沈黙が降りる。
足元をじっと見つめていたが、隣にリオが腰かける気配を切っ掛けに、口を開いた。
「あの、さ……黒髪の女の子を追い払ったのって、僕……なんだよ、ね?」
言葉を選びつつ、慎重に問いかける。
視線をやると、リオがこくりと頷いた。
「……僕、なにを、したんだろう」
正直に言えば、川で意識を失った後のことは、ぼんやりとしか覚えていないのだ。
自力で川を上がったことも、黒髪の少女に刃を向けたことも、かろうじて覚えてはいるが、まるで夢の中の出来事のように不鮮明だ。
それに、あの時アルが手にした剣。
あれは一体どこから取り出したというのだろう。
もっと不思議なこともある。自身の体のことだ。
あの少女に蹴られた痛みも、川に落ちた衝撃も……ふくらはぎに出来ていた切り傷さえ、綺麗に消え失せている。
今の体調は万全だ。不自然なほどに。
「……アル」
黙り込んだアルの手のひらを、そっとリオの両手が包み込む。
…小さな手だ。12歳のアルよりも、もっと幼い華奢な手。
「忘れないで。アルは、アルだから」
その言葉の真意は、まだよく分からなかったが。
それでも、リオが元気づけてくれようとしているのは伝わる。
「……ありがとう、リオ」
やんわりとその手を握り返す。彼女のおかげで、幾分か気分が上向いた。
わだかまる不安から、今は目を逸らして。
寄り添う二人は、まんじりともせず夜を過ごしていく。
スポンサードリンク