手を繋ぎ、無人の街を歩く。
暫しの間はなんのハプニングもなく進んでいたが、唐突にリオが足を止めた。
「わっ……どうしたの?」
手を繋いでいた為上半身が引っ張られ、少しだけ驚いてしまう。
振り返ると、彼女は少々険しい顔をしていた。
「リオ……?」
「こっち」
ぐいぐいと手を引っ張られるままに建物の影に身を隠す。
どうしたのかとリオの様子を伺えば、リオは無言のまま通りの先を指差した。
「?……っ」
指が示す先を見やり、息を飲む。
通りの向こう。建物の影から、あの大きな獣が顔を出したのだ。
それも一匹ではなく、4、5匹の小さな群れだ。
思わず声が出そうになり、咄嗟に口を両手で押さえる。
身を固くするアルの視線の先で、群れの一匹が地面の匂いを嗅ぎ、低く唸った。
(気付かれた……!?)
息を飲むアル。
しかし、獣達は暫し周囲を見回した後、ゆっくりと通りの奥へと消えていった。
「…………っは」
大きく息を吐き出す。
バクバクと早鐘を打つ心臓を胸の上から押さえ、少しの間呼吸に専念する。
「……あ、ありがとう、リオ……君が止めてくれなかったら、真正面から鉢合わせていたところだよ」
壁に背を預け、もう一度大きく息を吐き出す。
「それにしても、よく気づいたね。すごいよ」
「……うん」
感心するアルの言葉を受け、リオは少しの間のあとで頷く。
その僅かな間に気づくことなく、アルは暫し思考を巡らせる。
やはり、あの獣は一匹ではなかった。
ルカにつけられた傷があんなに早く治る筈はないのだから、当然と言えば当然なのだが。
それでも、考えたくはなかった。橋のたもとで出くわした時、まさかとは思っていたが……本当に複数存在するなんて。
(どうしよう……この先も、いるのかな)
もしも見つかったら。
また遠吠えであの少女を呼ばれるかもしれない。それだけは避けなければ。
もうすぐで家に着くと云うのに。
思い通りにいかない現実に歯噛みする。
難しい顔で黙り込むアルの手を、もう一度リオが引っ張った。今度は控えめに、だが。
「!あ、ごめん……ちょっと、考え事してた」
「……大丈夫?」
「平気平気!もうあの獣はいないし、行こっか」
「うん」
努めて明るい声を出し、もう一度二人で歩き出す。
できるだけ慎重に。けれどスピードは上げて。
(見つかる前に、なんとかたどり着かなくちゃ)
***
二人は時折休憩を挟みながら、慎重に歩を進めた。
あれ以降群れに出くわすことはなかったが、単体で街をうろつく個体は数度目にした。
その度にリオがなんらかの合図を送りことなきを得たものの、アルの精神は緊張ですり減っていた。
(もう少し、もう少し……!)
自分に言い聞かせながら通りを曲がる。
ここを抜ければ、もう家は目と鼻の先だ。
(見えた!!)
家を示し、リオにジェスチャーを送る。
彼女が頷いたのを確認し、慎重に周囲を見回してから、二人は一気に玄関まで駆けた。
予め取り出しておいた鍵を素早く差し込むと、ドアを小さく開く。
先にリオを中に通してから、自分もサッと身を滑り込ませた。
できるだけ静かにドアを閉め、震える手で施錠する。
カチャリ、と金属が擦れる音を聞いて、ようやくアルは肩の力を抜いた。
「……帰って、きた」
思わず口にした言葉だったが、言葉にしたことで実感がこみ上げてくる。
帰ってきた。帰ってきたんだ。
ヘナヘナと玄関に座り込むアルの肩に手を置き、気遣わしげに見つめるリオ。
大丈夫、と返すも、その言葉は震えている。
「よかった……よかった」
幾度も安堵の言葉を繰り返す。
そんなアルの肩に手を置いたまま、リオも隣に座り込む。
暫しの間、二人は玄関でじっと身を寄せ合っていた。
暫しの間はなんのハプニングもなく進んでいたが、唐突にリオが足を止めた。
「わっ……どうしたの?」
手を繋いでいた為上半身が引っ張られ、少しだけ驚いてしまう。
振り返ると、彼女は少々険しい顔をしていた。
「リオ……?」
「こっち」
ぐいぐいと手を引っ張られるままに建物の影に身を隠す。
どうしたのかとリオの様子を伺えば、リオは無言のまま通りの先を指差した。
「?……っ」
指が示す先を見やり、息を飲む。
通りの向こう。建物の影から、あの大きな獣が顔を出したのだ。
それも一匹ではなく、4、5匹の小さな群れだ。
思わず声が出そうになり、咄嗟に口を両手で押さえる。
身を固くするアルの視線の先で、群れの一匹が地面の匂いを嗅ぎ、低く唸った。
(気付かれた……!?)
息を飲むアル。
しかし、獣達は暫し周囲を見回した後、ゆっくりと通りの奥へと消えていった。
「…………っは」
大きく息を吐き出す。
バクバクと早鐘を打つ心臓を胸の上から押さえ、少しの間呼吸に専念する。
「……あ、ありがとう、リオ……君が止めてくれなかったら、真正面から鉢合わせていたところだよ」
壁に背を預け、もう一度大きく息を吐き出す。
「それにしても、よく気づいたね。すごいよ」
「……うん」
感心するアルの言葉を受け、リオは少しの間のあとで頷く。
その僅かな間に気づくことなく、アルは暫し思考を巡らせる。
やはり、あの獣は一匹ではなかった。
ルカにつけられた傷があんなに早く治る筈はないのだから、当然と言えば当然なのだが。
それでも、考えたくはなかった。橋のたもとで出くわした時、まさかとは思っていたが……本当に複数存在するなんて。
(どうしよう……この先も、いるのかな)
もしも見つかったら。
また遠吠えであの少女を呼ばれるかもしれない。それだけは避けなければ。
もうすぐで家に着くと云うのに。
思い通りにいかない現実に歯噛みする。
難しい顔で黙り込むアルの手を、もう一度リオが引っ張った。今度は控えめに、だが。
「!あ、ごめん……ちょっと、考え事してた」
「……大丈夫?」
「平気平気!もうあの獣はいないし、行こっか」
「うん」
努めて明るい声を出し、もう一度二人で歩き出す。
できるだけ慎重に。けれどスピードは上げて。
(見つかる前に、なんとかたどり着かなくちゃ)
***
二人は時折休憩を挟みながら、慎重に歩を進めた。
あれ以降群れに出くわすことはなかったが、単体で街をうろつく個体は数度目にした。
その度にリオがなんらかの合図を送りことなきを得たものの、アルの精神は緊張ですり減っていた。
(もう少し、もう少し……!)
自分に言い聞かせながら通りを曲がる。
ここを抜ければ、もう家は目と鼻の先だ。
(見えた!!)
家を示し、リオにジェスチャーを送る。
彼女が頷いたのを確認し、慎重に周囲を見回してから、二人は一気に玄関まで駆けた。
予め取り出しておいた鍵を素早く差し込むと、ドアを小さく開く。
先にリオを中に通してから、自分もサッと身を滑り込ませた。
できるだけ静かにドアを閉め、震える手で施錠する。
カチャリ、と金属が擦れる音を聞いて、ようやくアルは肩の力を抜いた。
「……帰って、きた」
思わず口にした言葉だったが、言葉にしたことで実感がこみ上げてくる。
帰ってきた。帰ってきたんだ。
ヘナヘナと玄関に座り込むアルの肩に手を置き、気遣わしげに見つめるリオ。
大丈夫、と返すも、その言葉は震えている。
「よかった……よかった」
幾度も安堵の言葉を繰り返す。
そんなアルの肩に手を置いたまま、リオも隣に座り込む。
暫しの間、二人は玄関でじっと身を寄せ合っていた。
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