男性の先導で居住区に走っている地下鉄の駅へと移動する一行。
ここは確か終点に位置する駅だったか。

地下に降りると、無人の改札を通り抜け、彼はホームから線路に飛び降りる。
戸惑うアルに手を差し出して「大丈夫、今は地下鉄も止まっているからね」と笑った。

男性の手を借りて、本来地下鉄が走る方向とは逆に進む。
すると、不意に男性が線路脇にしゃがみ込んだ。

砂利をかき分け、現れたハッチの扉を開け放つ。
驚くアルの前で、さも当然の様にルカがハッチの中へと飛び降りた。

「ルカ……っ」

慌てて駆け寄ると、一階分ほど続く梯子の下でルカが手を振っているのが見える。
ほっと肩の力を抜くアルも入る様促され、戸惑いつつもルカに続く。

「ここは……」

梯子を降りると、無機質な廊下が続いていた。
全員がその廊下に降りるのを確認した後、ルカが廊下の先でまたハッチを開ける。

同じ様な廊下を何層も降り、今が一体地下何階に相当するのか分からなくなった頃。
ようやく廊下の先に一つの扉が見えた。

男性が施錠された扉を開けると、そこには。

「……部屋?」

そこが地下とは到底思えないほど、「普通」の居住空間が広がっていた。
今し方くぐった扉の先を玄関とするなら、短い廊下の後にリビングがある。その短い廊下からはキッチンが伸びており、見れば冷蔵庫などの家電製品も置かれている様だ。

「さ、座っておくれ。僕は飲み物を用意するよ」
「あ、えっと……」
「あぁ、その前に自己紹介をした方がいいかな?僕の名前はリデル。昔研究者をしていた」

その言葉に、僅かにだがリオの目線が動く。
しかしそのことに気づくことなく、リデルは続ける。

「今は……そうだな、ルカの上司といった所かな?」
「ルカの?」

アルの視線を受け、ルカは肩を竦めてみせる。

「上司、ね。確かにそれ以上適切な表現はないか」
「?」
「まぁこっちの話。アルは気にしなくていいわ」

そう言うとルカはおもむろにソファへと腰を下ろすと、隣をポンポンと叩きアルに座る様促す。

「二人共疲れたでしょ?遠慮せず座って」
「う、うん」

ソファに三人が腰掛けたのを見、今度こそリデルはキッチンへと姿を消した。
それを目線で見送ると、ルカは改めてアルに向き直る。

「アル……ごめんね、あの時突然一人にして」
「!ううん、謝るのは僕の方だよ。だって、ルカは僕を守る為に戦ってくれたのに」

そこまで言った所で、ルカに抱き寄せられた。

「……よく、頑張ったね」
「っ」

思わず肩口に顔を寄せる。
涙が溢れそうになるのを、なんとか堪えようとするも、あまり意味はなかった。

「リオも、ありがとう。アルについててくれて」
「ううん」

ルカにそっと頭を撫でられ、そっと目を細めるリオ。
微かに緩む口元を見やり、ルカも微笑んだ。


***


リデルが運んでくれた飲み物を各々が飲み干した頃。
彼は重い口を開いた。

「……さて。アルくんとリオちゃんは、ここに来るまでに様々な異変を目にしたことと思う。その説明をしなければいけないね」

部屋の雰囲気が変わり、アルは思わず居住まいを正す。
そんな少年を見やり、リデルはふと小さく笑う。

「そんなに緊張しなくても……と言いたい所だけれど。それは無理かもしれないね。これから話すことは、あまり真実味がないことかもしれない。けれど、紛れもない事実だ。それを理解した上で、これからどうするか、決めて欲しい」

一拍置いたのち、彼は話し始めた。
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