随分と走り回ったので、エントランスに戻るのは時間がかかるだろうと覚悟していた。
しかし、そんな予想とは裏腹に、2人はいとも簡単にエントランスへと辿り着いていた。

「もうついちゃった……」

思わずそう呟いたアルを振り向き、リオが扉を指差す。

「……あそこから出られる」
「あ、ありがとう…!リオの案内のおかげだよ」

これでルカの言いつけを守れる。

「……ルカ、大丈夫かな」

アルを逃すために、大きな獣と戦ったルカ。
彼女は無事だろうか?

「……アル」
「!あ、ごめん……大丈夫」

リオの呼びかけにハッとし、慌てて笑顔を作る。
今ここで心配していても仕方がない。とにかく、家に帰ろう。
きっとルカもアルと合流するために帰るはずだ。

「ねぇ、リオ……リオは、どうするの?」

この塔で出会ったリオのことを、当然アルは深く知らない。
家がどこなのかも、どうして塔に居たのかも、なぜ裸足なのかさえ、知らない。

なぜかそのことに酷く不安を覚え、思わずその手を握った。

「リオも、僕と一緒においでよ。この塔にはあの黒髪の女の子や、大きな獣がいるんだ。ここにいたら危ないよ」
「……」

握られた手とアルの顔を交互に見つめる。
リオは暫し無言で立ち尽くしていたが、不意にコクリと頷いた。

「……わかった」
「よかった…!」

ほっと息を吐き出し、肩の力を抜く。

「まずは、僕の家に行こう。靴を貸したげるよ。そのままじゃ、危ないし」
「うん」

手を繋いだまま歩き出した2人。
そのままドアをくぐり、アルは久方ぶりに街へと戻った。


しかし、アルの目に飛び込んできたのは、記憶の中の風景と似ても似つかない光景だった。


「……なに、これ」

呆然と呟くアルの目の前。
眼下に見下ろした街はあちこちで火の手が上がり、遠くの方では爆発まで起こっていた。
幾本も立ち昇る黒煙が、鈍色の空に吸い込まれていく。

「なんで……」

変わり果てた街の様子に、ただただ立ち尽くすことしかできない。
そんなアルを現実に呼び戻すかのように、リオが手を引いた。

「アル」
「!」
「いこう」

こちらを真っ直ぐに見つめ、短くアルを促す。
アクアマリンの瞳はどこまでも静かだ。その瞳に見つめられ、僅かに冷静さが戻る。

「そう……だね。ここに居たら、さっきの女の子にまた見つかるかも知れないし……行くしか、ない、よね」
「うん」

静かに頷くリオ。
アルもまた頷き、そっとリオの手を引いた。

こうして2人は、騒乱の街に降り立った。

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