まるで廃墟のように荒れ果てた街中を、2人で手を繋ぎ慎重に歩く。
先程まで雨が降っていたのだろう。地面が僅かに濡れているので、裸足のリオを気遣ってできるだけアーケードの下などを選んで歩く。
しかしその雨のお陰であちこちの火の手はそこまで広がらずに済んでいるようだ。

この街は塔を中心にして、中枢区、川を挟み一般居住区、と円形状に広がっている。
塔から出てきたアルたちが今いるのは当然中枢区であり、アルとルカが居を構えているのは一般居住区の外れ。徒歩で行くには少々距離がある。

なので、2人は今列車乗り場に向かっていた。
手持ちは心許ないので家まで一直線とは行かないが、最初から徒歩で挑むよりはいいだろう。
しかし、街がこんな様子では、とても列車が運行しているとは思えない。

「止まってたらどうしよう……でも、他に足もないし」

ポツリと弱音が漏れる。
そんなアルをリオは相変わらず静かに見つめていた。

「ねぇ、リオ……君は、不安じゃない?」
「……」

思わず漏れた問いかけに、リオは首を傾げる。
暫しの間のあと、ゆっくりと首を左右に振った。

「アルが……いる」
「……僕?」
「うん」

こくりと頷く彼女は、繋いだ手をキュッと握り返す。
その姿に胸の奥が暖かくなる。出会って間もないアルのことを、彼女は信頼してくれているのだ。

弱音を吐いている場合じゃ、ない。

「……ごめん」

一言断り手を離すと、両手で頬を叩く。
ペチンという気の抜けた音がした。

「よし!!もう大丈夫、いこ!」

一言気合を入れ、もう一度手を差し出す。
リオはそんなアルの行動を不思議そうに眺めていたが、こくりと頷くとアルの手をとった。

「ねぇ、リオ。考えたんだけど、街がこんな状況じゃ、やっぱり列車は動いてないと思うんだ。だからね、手段を変えようと思う」
「……?」

首を傾げるリオに笑いかけると、アルはとある店舗へと足を向けた。


***


「しっかり掴まっててね?」
「うん」
「行くよ――!!」

掛け声とともに、力一杯ペダルを漕ぎ出す。
リオを後ろに乗せ、自転車を走らせる。ぐんぐん後ろへ流れていく街並みを眺め、これなら行ける、と微笑む。

因みに自転車を置いていたお店のカウンターに手持ちのお金全てと、足りない分は後で必ず払いに来るという旨の書き置きをちゃんと置いてきた。
……それでも十分いけないことだろうが、何もないよりはマシだろう。
後ろめたさを感じつつも、ペダルを漕ぐことは止めない。

(ごめんなさい、お店の人……緊急事態だから、今だけ許して)

街並みを眺めつつ、それにしても、と思う。
先程の店も、今まで歩いた街中も。人っ子ひとり見当たらないのはどういうことか。

どこかに避難したのか、とも思ったが。それにしても人が居なさすぎる。
誰も居ない街に薄寒いものを覚えつつ。
アルは少女を背に、家へと急ぐ。そこではいつもと変わらない様子のルカが迎えてくれると信じて。
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